直流安定化電源を自作してみた

余談-----
最近Twitterがイ一口ンマスクのせいでつまらなくなってしまった。もうあのアイコンは見たくもない。旧Twitterをやめてマストドンに逃げたが、それまでフォローしていたオタクのツイートが見れなくなってしまって悲しい。マストドンは最初何も分からずmstdn.jpに垢を作ってみたが、あそこはLTLがかなり荒れていて居心地が悪かった。misskeyも試してみたが、リアクションがわちゃわちゃしすぎていて自分には合わなかった。今はVivaldi Social(通称、ビバ丼)に落ち着いた。ビバ丼はそこそこ居心地が良い。ハッシュタグ#ビバ丼で美味しいものを投稿する謎の文化はとても良いと思った。以上、生存報告。

はじめに

直流安定化電源をつくったのでブログに残しておこうと思う。今まではその都度ACアダプタや9V電池からレギュレータで電圧を落として電源をとってきていたが、さすがに面倒くさいので汎用的に使えるそこそこまともな電源がほしいなぁと前から思っていた。買ってもいいけど、自作する方が楽しいでしょう。

最近は高周波アナログ回路を扱うことが多いので、ノイズを出さないドロッパ方式の電源とした。負電圧が必要になることも稀にあるので、正電源と負電源(0 V~±15 V)を組み込むことにした。0 Vから調整可能にした点はちょっとしたこだわり(LM317等の可変レギュレータでは実現できない)。

それと、今回は見た目にもこだわってみた。やっぱり見た目が良い方が愛着も湧くし、大事に使おうという気持ちになる。アナログ電流計・電圧計のレトロな感じが個人的に好き。

構成

Fig. 1にブロック図を載せる。まず100 VACからトランスで15 VACに落とした後、整流回路~平滑回路を通して±20 VDCにする。ツェナーダイオードにより生成した±15 VDCの基準電圧を可変抵抗で分圧し、可変電圧レギュレータ回路(オペアンプ+MOSFETで構成)でブーストして出力する。正電源・負電源それぞれに電流計を入れて出力電流を表示する。電圧計はスイッチで切り替えるようにすることで、正電源・負電源で共通とした。

Fig. 1 ブロック図

回路図

Fig. 2に整流回路の回路図を載せる。まず100 VACからトランスで15 VACに落として、ブリッジダイオードで全波整流する。15 VACは実効値なのでピーク電圧は15 V×√2≒21 Vとなり、ダイオードの順方向電圧を引いて20 Vくらいになる(実際は無負荷のときトランス出力はもう少し高い)。平滑コンデンサ(C3, C4)には6800 μFと大きい容量を用いる。電源投入時、空っぽのコンデンサを急速に充電しようとして突入電流(~10 Aくらい?)が流れてしまうのを防止するための突入電流保護回路を入れることにした。電源投入後、最初は電流制限抵抗(R3, R4=50 Ω)を通してコンデンサが充電されるため、突入電流が抑制される。電源投入から0.5~1秒くらいすると電圧が±16~17 Vに達し、フォトカプラが作動してMOSFET(Q1, Q2)がオンになり、電流制限抵抗がショートされる。LED1をパイロットランプに利用することで、電源投入してから時間差で点灯し、スタンバイのインジケータとして機能させることができる。

Fig. 2 整流回路・突入電流保護回路

Fig. 3に可変電圧レギュレータの回路図を載せる。負電源は正電源の回路をそのままひっくり返した構成(ダイオードトランジスタのNPN/PNPが逆)なので説明は割愛する。まず、ツェナーダイオードで15 Vの基準電圧を生成し、ヘリカルポテンショメータで0 V~15 Vの範囲で電圧を調整する。これをオペアンプ(TL081CP)とMOSFETで構成したゲイン1倍の非反転増幅回路でブーストして出力する。0 Vから調整できることにこだわったので、オペアンプの電源電圧は-3 V~+20 Vとした。

Fig. 3 可変電圧レギュレータ回路

実験用電源なので、出力に容量性負荷が繋がっても発振しないように、フィードバックループの安定性に注意する必要がある。今回は、R8=1 kΩとC8=1 µFを用いてフィードバックのループ帯域を落とす手法を選択した。R8とC8のカットオフ周波数はfc=1/(2π×1 kΩ×1 μF)≒159 Hzとなり、これより高い周波数領域ではC8のループが支配的になり、オペアンプの安定性はボルテージフォロアと等価と言える(つまり安定)。ただし、この領域では回路の出力がフィードバックから切り離されるので、急激な負荷変動には鈍感となる。DC~カットオフ周波数の領域では、R8のループが支配的となるため(C8はオープンに近い)、DC電圧精度を維持することができる。ソースフォロア(ドレイン接地回路)の出力インピーダンスを約1 Ω(?)と見積もると、1000 μFの容量性負荷を繋いだときゼロとポールの周波数が重なり、それ以上の容量だと安定性が失われる可能性がある。

また、誤って出力をショートしてしまったときにMOSFETを保護するため、Q4とR11=0.5 Ωで過電流保護回路を構成する。R11に1.3 A以上流れるとQ4のベース-エミッタ間電圧Vbe=0.65 Vに達してQ4がオンになり、MOSFETのゲート電圧を下げるように働くため、出力電流が抑制される。Q4がオンになると、定電流ダイオードCRD3を通って電流が供給される一方、ダイオードD4がオペアンプからの電流供給を阻止してくれるのでオペアンプも保護される。D2、D3はオペアンプの±入力端子間に過電圧が加わらないよう入れている。


全体の回路図はこちら

部品紹介

トロイダルトランス HDB-30(L) / 0-15V 1A / 0-15V 1A

トロイダルトランスはドーナツ状のコアに線を巻いた構造になっており、普通のEIコアのトランスと比べて漏れ磁束が極めて小さい。高級品で、特にトロイダルトランスである必要もなかったが、一度使ってみたかった。2次側は定格15 V, 1 Aの巻き線が2回路入っている。共立エレショップで購入。

アナログメータ(電流計・電圧計)MR-38

奥沢電気製作所のMR-38シリーズ。DC15 Vの電圧計×1個、DC1 Aの電流計×2個を使用。44 mm×44 mmの大きさがちょうど良い。共立エレショップで購入。

製作

基板作成

整流回路~平滑回路は自作のプリント基板に実装した。銅張基板の銅箔にカッターで筋を入れ、ピンセットでつまんでペリペリと剥がす方法でパターンを作成した(銅箔ペリペリ法)。銅箔厚18 µmの基板だと銅箔をピンセットで引っ張ったときに千切れてしまうが、35 µmならこの方法が使える。

銅箔ペリペリ法については下を参照。
https://x.com/neuroi_S2/status/1683079331697025024?s=20

可変電圧レギュレータ回路はユニバーサル基板に実装した。あらかじめMSペイントで配線図を描いてからはんだ付けしたのでミスなく配線することができた。

ケース加工

ケースはタカチのUC型ユニバーサルアルミサッシケース、UC26-7-20GG(260(W)×70(H)×200(D)mm)を使用した。ライトグレーの塗装仕上げとなっており高級感がある。上下カバーとフロント・リアパネルが分離できるので加工がしやすい。

Inkscapeで描いた図面を印刷した紙を貼った状態でシャーシ加工をしてみた。小さい穴はドリルであけ、大きい穴や四角い穴はリーマーやハンドニブラを使って0.5 mmくらい残して広げた後、棒やすりで整えた。

文字入れは、マットフォトペーパーという上質な紙にインクジェットプリンタで印刷し、切り抜いて糊付けしてみた。結構おしゃれな感じに仕上がったと思う。

組み立て

内部の配線。

写真左下、ケースの塗装を剥がしてアルミを露出させ、一点アースとしている。

完成

完成~~

フロントパネル↓。左から、パイロットランプ、電源スイッチ、電流計×2、電圧計、出力ON/OFFスイッチ、電圧計切替スイッチ、出力端子(-/GND/+)、電圧調整つまみ。出力のターミナル端子は29 mmピッチとすることで、BNC-バナナ変換アダプタが刺さる設計にしてある。

リアパネル↓。後ろにはACインレットとヒューズを取り付けた。また、なんとなく、整流回路後の+20 Vを取り出せるようにしておいた。

評価

だいたい問題なく動作することを確認した。下の写真は電圧調整つまみをMAXまで回して出力電圧をテスターで測ったところ。ちゃんと15 Vが出力できている。

負荷変動時のリップル測定みたいなことも試してみた。下の写真は、10 Ω, 10 W(実際には1 Ω, 1 W抵抗×10個直列)の負荷抵抗をパワーMOSFETでオンオフさせたときの5 V出力波形をオシロスコープで観測しているようす。(このためにハンドヘルドオシロスコープHDS272Sをポチってしまったが、買って良かったと思う。)

5 V出力波形↓。リップル電圧は0.5 Vpkくらいあり、2 ms程度で目標値に収束している感じ。前にも述べたが、急激な負荷変動に対してはループ帯域外なので、出力段MOSFETのソースフォロアの出力インピーダンスが見えているイメージで、まあそんなもんかなあという印象(ざっくり)。収束の早さに関しても、設計したループ帯域的に妥当な値だと思う。

次に、100 μFの電解コンデンサを並列に追加した場合の波形↓。パスコンを追加したことにより、リップル電圧が~0.35 Vpk程度まで緩和されることが確認できた。